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【第1回】田中角栄──なぜ今、語るべきか?
「角栄みたいな人間にはなるな」
俺は、そう母親に言われて育った。
学歴も地盤(じばん)もない男が、なぜ一時はこの国の頂点に立ち、全国津々浦々の地域開発にまで影響を及ぼしたのか。
この問いは、今の日本政治を見るうえで、無視できない気がしている。
■ 地盤も学歴もない「異端児」
田中角栄は、少年期に貸工(かしこう=出稼ぎ労働者)として働き、高校も大学も出ていない。
政治家にとって不可欠とされる「後援会」や「世襲地盤」もなかった。
それでも地元の人たちと何度も何度も話し合い、少しずつ味方を増やし、支援を得ていく。
誰よりも早く「においち(2×1=2)」を計算し、「行政は数字だ」と言い切った男。
きっと、角栄は孤独だったのだろう。
■ でも、俺の中で“悪”から“カッコイイ”に変わった
日本中のメディアが、彼を金権政治家として叩く中で、
ヨッシャ、ヨッシャと笑顔で手を挙げて選挙区を回る姿。
「悪びれず、媚びず」。
あの堂々たる態度に、俺は純粋にカッコよさを感じた。
本当に、田中角栄は“悪者”だったのか?
たとえそうだったとしても、あの存在感は、
今の政治家にはない“国家の背負い方”を感じさせた。
■ 戦後最年少で総理大臣に就任
角栄は、55歳で戦後最年少の総理となった。
その理由は、いくつかの要素に集約される。
- 自分の言葉で話す
- 出来ること・出来ないことを5分以内で即答
- 人の心をつかむ“圧倒的な記憶力と現場主義”
各省庁の予算、官僚の家族構成、新潟3区の選挙民の家庭事情──
それをすべて記憶していたというのだから、まさに“人間データベース”。
「握手した数しか票は入らん」
というのが彼の持論。
政治とは、雪との闘いだ──と、新潟の豪雪を歩きながら、足元から地盤を固めた。
■ 政治は“都会”のためだけにあるんじゃない
角栄が提唱した「日本列島改造論」は、
単なるインフラ整備ではなく、都市に偏った国家構造を是正しようという意志だった。
- 地方の道路や鉄道を整備し
- 中小企業にも資金を回し
- 都市と地方を“同時に活性化”させる
現代の「オンラインだけの政治」とは次元が違う、
“地に足のついた国家デザイン”だった。
【なぜ、今、角栄を語るのか?】
2025年、また参議院選挙がやってくる。
だが、今の政治家たちは、本当にこの国の未来を見ているのだろうか?
SNSのノイズに流され、誰かに忖度し、言葉も曖昧で、スローガンばかり。
そんな今だからこそ、俺はもう一度、
田中角栄という存在を“疑いながら”でも振り返りたい。
金権政治の象徴。
だが同時に、117人の派閥を率い、「数こそ力だ」と言い切った現実主義者でもあった。
なにより、「数字」をベースに政治を動かしたのは、角栄だった。
次回予告:角栄の栄光と転落──高度経済成長からロッキード事件へ
日本列島改造論を軸に、地方から日本全体を押し上げた田中角栄。
その政治力と経済政策は、戦後の高度経済成長を加速させた立役者だった。
だが、その栄光の裏側で、着々と仕組まれていた“失脚のシナリオ”。
・なぜアメリカは角栄を恐れたのか?
・「日本の自主独立」と「対米従属」の分岐点
・沈黙する日本の官僚と検察、そして裁判所
次回は、角栄の“絶頂から崩壊”までを、ロッキード事件を軸に追っていく。





